水虫のことを医学では白癬というのは皆さんもご存知ですね。数年前からTVや新聞などで足の爪が白く濁った爪白癬や、カカトと足の裏が硬くなった角化型・角質増殖型白癬のことが紹介されて、「薬を飲んで治したい」という患者さんが増えました。とくに素足になる機会の多い夏場の皮膚科は大混雑です。ところが「自称みずむし」の方の6割が、じつは違う皮膚病だったという調査結果があります。今回は足裏の皮膚が厚く硬くなり、水虫と間違えやすい代表の「健康サンダル角化症」についてお話します。
まず、どんなときに足の裏が硬くなるか考えてみましょう。まず思い浮かぶのはタコ(医学では胼胝べんちといいます)とウオノメ(鶏眼けいがん)です。きつい靴や高いヒールの靴をはくと、靴と足や趾(足のゆびを趾と書きます)の骨のあいだにはさまった皮膚がこすれて硬くなるのです。ですから、好発部位は骨の出っ張っている第5番目の趾の外側とか、歩くときに出っ張る第2番目の趾の付け根に多いのです。というように、つねに圧迫を受けていたり、摩擦などの刺激を受けたところが厚く硬くなるのです。私たち皮膚科医からみると、手相ならぬ足裏の状態からたくさんの情報を受け取ることができます。久しぶりに来院されたお年寄りの足底が柔らかいと「最近は歩かなくなったようだ」とか、趾先のほうばかりが硬くなっていると「前のめりで歩いているようだがパーキンソン病になったのかな?」。年齢を問わずに、硬くなってきた足裏を見て「最近体重が増えてきたのかな?」と推理したりします。
さて本題にはいりましょう。“いぼ状の突起”がたくさん出ていて、足の裏を適度に刺激する健康サンダルは手ごろな健康器具として普及しています。腰痛や肩こりなどに良いと、つねに履いている方もいますね。ところが履いている人のなかには、サンダル表面の“突起”が歩くたびに皮膚を刺激して、図のような形に足裏の皮膚が硬く厚ぼったくなってしまうことがあるのです。これを「健康サンダル角化症」と呼ぶのですが、意外と皮膚科医にも知られていないので要注意です。足の裏ですから皮膚科医でも角化型白癬と誤診してしまうことがありますが、顕微鏡で調べても水虫菌はいませんし、菌がみつからないことが多い角化型白癬の治療をしても治らないのでこの病気だと分かります。
私自身が健康サンダルを履いて、角化症ができるかどうか試してみました。左足のみに毎日3~4時間履いて自宅での日常生活を過ごしたところ、はじめはイボイボの突起が痛くて、まだ柔らかい足裏の皮膚にはイボイボの形どおりに跡がつきました。痛いのを我慢して履き続けて2週間くらいすると足底が硬くなり、約1ヶ月後には健康サンダル角化症の形に数ミリの厚さで硬くなりました。作成実験は大成功でした。つづいて、履くのをやめたらどのくらいで元に戻るかを調べると、治癒には2ヶ月かかることが分かりました。
この病気は、「こういう角化症があるのだ」ということを知らなければ診断できません。また、当然ですが、いぼいぼサンダルを履いているかぎりは治りません。足の裏が硬くなったり変な感覚を感じたら、顕微鏡検査で白癬ではないことを確認してもらい、健康サンダルを愛用されている方は1~2ヶ月のあいだ履かないですごしてみてはいかがでしょう。
(平塚市:湘南皮膚科・栗原誠一)